住宅の耐震性能 <耐震と制震と免震> 前編2023.04.03

業務企画室の阿部将也です。
今回は「住宅の耐震性能」第二弾・前編として<耐震と制震と免震>についてのお話です。
 
住宅展示場や工務店のモデルハウスを訪れ、いわゆる営業マンから説明を受けた方はほぼ必ず「耐震と制震」という言葉を耳にしたことがあると思います。簡単に言うと耐震と制震は、地震に対する建物や構造物の挙動を制御するための技術ですが、それぞれ異なるアプローチを取っています。
 

 
耐震とは、その字の如く地震などの振動に“耐える”ことを指します。建物の骨組みに強度と剛性を持たせ、地震などの振動に対して十分な耐力を確保することで建物が倒壊することを防ぎます。一般的な住宅ではほとんどが耐震で設計されています。弊社の場合、SE構法の物件は耐震構造で設計を行っています。
 

 
一方制震とは、振動を“吸収(制御)”することを指します。制振装置を使用することで地震の揺れを減衰させ、建物の挙動を制御することができます。制振装置はダンパーやばね、減衰器などがあり、建物の柔軟性を高めたり、揺れ幅を小さくすることで地震などの振動による損傷を最小限に抑えることができます。
 

 
簡単に言えば、
耐震=【建物をより強固にすることで地震などの振動に耐えるようにする技術】
制振=【地震などの振動を吸収することで建物を守る技術】

と言えます。耐震と制震は、建物の安全性を高めるために併用されることもあります。
 
弊社で設計する在来工法の物件は、住友理工(株)の木造住宅用制震システム【TRCダンパー】を採用した制震構造となっており、システム販売当初から全棟に標準採用しております。
 

 
数ある制震ダンパーの中でもこのTRCダンパーは、国土交通省の大臣認定など公的認定を取得していること(取得していない製品がほとんどです)、設置シミュレーションによりどの程度揺れを軽減できるか、その効果を確認できることが他製品とは異なる点です。お客様のご要望に応じて製品を変えるよう検討したこともありましたが、上記の理由からTRCダンパー100%です。
 
※工務店の声のページに弊社の社長インタビューもあります。
 

 
お客様より「耐震と制震どっちが良いのか?」とご質問を受けることが多々あります。大手ハウスメーカーでは制震構造を標準採用しているところも多い為、「耐震=制震よりも弱い」という認識でお越しになる方も多いのですが、決してそんなことはありません。上記の通り耐震と制震では揺れに対してのアプローチが違います。
 
私はこの違いをよく「ジャンプをすること」に例えています。私たちがジャンプをして着地をする際に膝を曲げますが、これは着地の衝撃を吸収する為です。制震はこのジャンプの動作と同じように、制振装置で揺れ(=着地の衝撃)を抑え建物へのダメージを与えないようにしています。一方で耐震は、着地時に膝を曲げる動作は一切せず、ピンと伸ばした状態で着地するイメージです。膝へダメージが行く様に感じますが、ダメージが気にならないレベルまで膝を鍛えている、というのが正しいイメージです。
 

 
さらにもう一つ、免振という言葉を知っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
その字の如く揺れから“免(まぬが)れる”という意味です。振動を建物自体に伝わりにくく、または伝わらないようにすることを目的とした技術です。基礎と建物の間に、免震装置と言われるゴムやベアリングを取り付け、これらが揺れに対する緩和剤となり、地震の揺れが建物に伝わりにくくなります。
 

 
ゴムと聞くと家の重みでゴムが機能するのか不安になられる方もいるかと思いますが、免振装置に使用するゴムは、ゴムと鉄板を交互に重ねてできた特殊な「免震ゴム」と呼ばれるものです。垂直方向の重力に対しては鉄板の強度が働き、水平方向の力に対してはゴム特有の柔軟性を活かすことで機能する特殊なゴムになります。地震による影響は建物の重さに比例します。そのため、耐震だけでは限界のある高層ビルや商業施設などにこのような免震技術が取り入れられています。一般の住宅に対しては費用対効果があまり望めないため、着工件数は少ない傾向にあります。
 

 
耐震、制震、免振をご紹介しましたが大切なポイントは、 どれもベースは「十分な建物の強度=耐震」があってこそその効力を持つということです。いくら制振装置や免振装置が良いモノ、優れた技術のモノであっても剛性や強度不足の建物ではその性能は十二分に発揮されません。
 
「制震」「免振」はあくまでも補助として無柱の大空間や高い天井高、特殊な形状の建物に対して計画されることが多いです。現在は耐震性能の技術も進み、正確な構造計算ができるようになったことで、建築前にその性能を十分確認した上で設計することが簡単になりました。地震に強い家にしたいと考えた時、耐震はどんな建物でも必ず考えなければなりません。まずは耐震性能をあげること、その次に「免震」「制震」が必要であれば追加するということになります。

 
次回は、なぜ弊社が「耐震」と「制震」を使い分けているかについて掘り下げます。

 
 

業務企画室 室長 阿部

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