住宅の耐震性能 <構造計算の意外な落とし穴①>2023.10.11

前回は、3つの構造の計算方法をお伝えしました。『構造計算』と言ってもそれぞれに特徴とレベル差があることはお分かりいただけたかと思います。今回はそれに関連するトピックスとして、「構造計算の意外な落とし穴」を2つご紹介します!
 
 
その1. 大手ハウスメーカーは全棟【構造計算】していない?!


タイトルの通り、大手ハウスメーカーのほとんどは1棟ずつ構造計算していません。
「え?!ハウスメーカーはもちろん構造計算しているんでしょう?」ホームページにも構造の信頼性を謳っているページがあるし、営業さんも構造のトークに「自信を持っていますよ!」という声をよく聞きます。
 

 
私も大手ハウスメーカー出身なのでよく理解していますが、大手だけあって構造については各社独自の研究・検証を重ね、それに基づく高いレベルの信頼性を得ています。ですので、「簡単に倒壊する建物は提供していない」ということに間違いはありません。ただ、文字通り“1棟ずつ”構造計算をしていないのは事実です。
 

 
というのも、大手ハウスメーカーの多くは【型式適合認定】という国土交通大臣の認定を受けた商品を販売しています。簡単に言うと、『一定の建築基準を満たす様々なパターンの建物を、事前に国の審査を受け登録することで、構造や性能に関わる部分の個々の審査を省略できる』という認定です。(メーカーによって出し方は違います)そのため、形が違う建物でも実は「同じ型式適合認定番号を利用している」ということも起こりうる話です。
 

 
1棟ずつ計算しているのではなく「お客様の間取りの建物が事前に登録されている建物と同等の性能だろう」という考え方のもと検証を行いますので、厳密には1棟ずつ計算しているわけではないということです。全国規模で展開しているハウスメーカーが建てる住宅棟数は工務店の比にならないため、これらを省略できることによって、膨大な資料や設計に費やす時間、費用も削減できるというわけです。

この【型式適合認定】は審査や構造計算も省略でき、国のお墨付きもある便利な制度ですが、実は大きな問題が一点あります。それは将来的に建てたハウスメーカーでしか「増改築」や「大型リフォーム、リノベーション」ができなくなるということです。
 

 
型式という通り設計ルールが決まっていますが、それは決められた部材、決められた寸法のものを予め登録して使用しています。この認定情報の詳細は、お施主様はもちろん、弊社の様な同業他社も確認することができません。そのため、確認申請が必要な大きな改修の際には、建てたハウスメーカーでしか申請ができません。そうなると見積の比較はできなくなりますし、そのハウスメーカーが住宅事業から撤退してしまえば頼る先が無くなってしまいます。
 
つまり、【型式適合認定】は審査や構造計算の省略などメリットはありますが、将来建てたハウスメーカーと一蓮托生だということも頭に置いておかなければいけません。
 

 
次回は、意外な落とし穴の2つ目、「構造計算できます!個別にご相談ください!」というキャッチフレーズの裏話です。
 
 

業務企画室 室長 阿部

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