さて、前々回の住宅の耐震性能<構造計算は当たり前?>、前回の住宅の耐震性能<構造計算は必要?>に続き、構造計算についての第3回。今回は構造計算の種類について掘り下げてみます。
さて、構造計算と一言でいっても実は木造の構造計算は大きく分けて3つあります。
①壁量計算
②性能表示による計算
③許容応力度計算
それぞれどんな違いがあるのか、みていきましょう。
①壁量計算
地震や台風など建物に強くかかる外からの力に対して「耐力壁」と言われる壁の配置や材料、厚みなどを検討し、必要量が確保されているか計算する方法です。構造の専門家でなくとも行えるため、構造を専門としていない私でも計算できます。計算結果の資料は、A3用紙1枚あれば収まるレベルです。
木造2階建て以下かつ延べ面積500㎡以下の建物においては、この【壁量計算】での構造検討が認められており、条件からして住宅を含むほとんどの建築物が当てはまることがわかります。
②性能表示による計算
こちらは上記の【壁量計算】にプラスで「床・屋根倍率の確認」、「床強度に合わせた横架材接合部の確認」を行う方法です。壁量計算より検討する項目が増え、より詳細に構造検討を行います。耐震等級2以上を確保し「性能評価住宅」の認定や「長期優良住宅」の認定を受ける為に必要な方法のため、耐震等級2や3「相当」と謳っている会社、長期優良住宅認定済みの分譲などに多く利用されています。
③許容応力度計算
いわゆる構造計算と言われるものは、この【許容応力度計算】になります。地震や台風など外からの力によって建物にかかる「水平力」と、建物自体の重さ(固定荷重)や家具・人など重さ(積載荷重)、雪の重さ(積雪荷重)などでかかる「鉛直力」に対して、壁ではなく“柱や梁といった部材”に至るまで全ての強度検証を行い、その安全性を確認します。さらに発展した方法では、建物がどれくらい傾くか、上下階の強度バランス、重さと強度のバランスがとれているかも検証します。(※一般的にはここまで行って構造計算と言われます)構造計算結果の資料は、A3用紙百枚以上になります。
これを読まれた方は、①の壁量計算と③の許容応力度計算で計算のレベルが違うことが少しでも伝わったかと思います。つまり、①→②→③の順で構造の計算は緻密になり、安全性は確実なものになっていきます。
そもそも「どこまで安全性を確かめるのか」という目標設定が違うのです。仮に耐震等級3の建物が2棟あって①と③の建物がそれぞれあるとしたら、それは同じ構造強度と言えるでしょうか?耐震等級というくくりでは同じでも、私は全く違うと断言できます。端的に言えば、A3用紙1枚と百枚以上の差は比べるべきでないレベルです。
以上のことから、阿部建設では、特にお客様のご要望がなくとも全棟【許容応力度計算】を行っています。安全性を確実なものに。それこそが、永く安心して住まい続けられる条件だと思っています。
近年では太陽光発電を載せる住宅も増えており、壁量計算に対して縮小の方針が決まりました。2025年からは2階建ての住宅も構造計算義務が発生します。その背景には「壁量計算では足りないのではないか?」という国の思いがあるのではと思っています。
とはいえまだ2年も先のことですので、構造計算を行っていないメーカー、工務店も多くあります。
業界の問題として構造計算をしなくて良いという基準があるわけですが、これはお客様にはなかなか伝わらない情報です。これから家づくりを考えられている方は、ぜひお願いしたいメーカーや工務店に構造計算の有無と、どの様な方法で行っているかを確認してみましょう。
次回は、構造計算の意外な裏話です。
業務企画室 室長 阿部