
奥様 家づくりでは駅へのアクセスや主人の実家に近いことなどを条件に土地探しを始め、同時にハウスメーカーにも足を運びました。
ご主人 まず、がんばらずラクに介護できることが最優先でした。国内でも症例が少ない疾病のある子どものケアを円滑にする住まいを目指したんです。大手ハウスメーカーなどに相談に行ったところ、「通路を広くしましょう」といった提案しかなくて…。最初から完璧を求めないスタンスだったのですが、それにしても説得力を感じませんでした。
奥様 バリアフリーであってもデザイン性に妥協はしたくありませんでした。インスタグラムなどで情報を収集し、いろいろ見ているうちに、私たち夫婦は建築家・伊礼智さんのテイストが好みであることに気づいたんです。それで伊礼さんとコラボしている工務店として阿部建設を知りました。コラボしている建築会社はいくつかあったのですが、バリアフリー住宅を手がけていて、なおかつ車いす生活者の社長がいる会社はほかにありません。阿部建設は好みのテイストに加え、バリアフリー住宅の知識と経験が豊富なことが決め手でした。
ご主人 実は、もともとは漆喰や無垢の床には興味を持っていなかったのですが、自然素材でないと好みの雰囲気は出ないだろうと素材にもこだわりました。

ご主人 がんばらない介護をめざしつつ、わからないことも多いのが実情でした。子どもがどう成長していくのか、それに伴って介護がどう変化していくのかを予測できないため、今後必要になるバリアフリー設備の判断が難しかったです。手すり一つをとっても、身体状態によって必要になるケースもあれば、立ち上がれない場合は逆に邪魔になり、空間を狭くする可能性もあります。
奥様 同じ立場にあるご家族に尋ねてみても、参考になるところもありますが、個人差があるので何ともいえません…。お聞きしたところ、伝い歩きが中心のお子さんは、通路幅が大きいと壁で体を支えることができないため、逆に生活しづらいそうです。わが家の場合はおそらく車いす生活が続きそうなので、それに対応する通路幅を設定しました。施工段階でも、他社さんに依頼した知人は、通路で本当に車いすが旋回できるかどうかを心配し、自分たちで実験して確かめたとおっしゃっていました。その経験談も参考にしつつ、阿部建設は必要な部分をしっかり確認して進めてくれると感じていたので安心してお任せできました。
ご主人 阿部社長には、子どもの主治医やリハビリの先生とも直接会って話をしてもらって検討いただきました。そして将来の状況がわからないからこそ、変化に対応できる家にすることにしたのです。
実際にほかとは提案のレベルが違いましたね。たとえば、将来的に子どもが寝室でウェルケアベッド(※1)を使って入浴できる提案をしてくれました。今は私が子どもを抱きかかえて浴室で入浴していますが、成長していく過程でどんな方法が適切になるかはまだ分かりません。だけど一つの選択肢として、自分の部屋で入浴できるように、寝室の床材には湯水に濡れても問題のない素材を選び、排水管を通し、換気扇も設けました。もし、介護サービスを利用するのであれば、訪問入浴の事業者が専用の浴槽を持ち込むため、寝室の入浴設備は不要となりますが、今の時点で考え得る備えを施したのです。

ご主人 玄関は、阿部建設のモデルハウス「手しごとの家」を見学した当初から、ここを参考にしたいと考えていました。「手しごとの家」は車いす生活者の動線に配慮した設計になっていて、通常の玄関ドアと車いす用玄関ドアの2つが設置されています。この考え方は絶対必要だよね、と妻と話しましたね。わが家では玄関ドアは一つにして、そこから車いす用とそれ以外の2つの動線をつくりました。
奥様 玄関には車いすの収納場所がほしかったので、シューズクロークの広さも確保したいと思っていました。ただ、玄関を広くすると、当然ではありますがほかのスペースが狭くなってしまうので悩みましたね…。
ご主人 本当に間取りを決定するまでにいろいろと考え、時間がかかりました。
もうひと部屋ほしいという希望もありましたし。
奥様 この先の親の介護を想定すると、畳スペースがほしかったんです。最終的に、これは本当に自分たちがしたいことだろうかと原点に戻って考えました。親の介護については、必要になった時に改めて考えるという結論になり、居室数は減らしました。
ご主人 駐車場をつくる位置も迷いましたね。道路に接している南側か北側にしかつくれないはずなのに、なかなか決まらなくて…。設計担当の三宅さんには、打ち合わせを重ねる中で、駐車場の位置を含めた間取りプランを数多く提案いただきました。結局、駐車台数を3台から2台にして、北側にメインの駐車場を設けました。日当たりの良い南側には大きな開口部を持ってきて、やさしい雰囲気の面をつくろうということになったんです。また、北側と南側をつなぐ通路に玄関をつくり、雨の日もスムーズに動ける動線にしています。

ご主人 家事動線も重視し、プライバシーの確保も考慮しながら、水回りやファミリークローゼットなどのレイアウトも決めていきました。僕たちの希望であり、阿部建設からの提案でもあったのが、回遊動線です。行き止まりがなく、家の中をぐるりと周れます。実際に生活し始めると、回遊動線だからどの部屋も2方向から出入りでき、便利さを実感しています。
奥様 ドアの数は多いけど、いらなかったと感じるドアはないんですよね。
ご主人 キッチンには、妻が使いやすい高さを調整し、手持ちの食器がうまくおさまる造作の背面収納を設けました。浮かせる収納や引き違い戸も取り入れ、機能性を追求しています。
奥様 遊び心も大切にしたかったので、キッチンにはお気に入りのタイルを施しました。洗面室などの水回りにも取り入れています。タイルのショールームに一人で出かけて行き、20種類以上のサンプルから考え抜いたんです。洋服を選ぶみたいに楽しかったですね。
ご主人 居室数を絞った一方で、スペースを大きくしたのがウッドデッキです。今後、子どもは外出が大変になってくる可能性もあるので、家の中でいろいろな過ごし方をできるようにしたかったからです。ダイニングからフラットにつながり、庭に出たり夏はプールで遊んだりできます。
ご主人 もう一つ、家づくりでは温熱環境も重要なポイントでした。1階には床下冷暖房システム「エアボレー(※2)」を導入したので、フロア全体が快適な温度に保てます。暑い夏も、帰宅して玄関を入ったら涼しくて最高です。このシステムは1階のみに設置しましたが、冬は暖気が上昇するので、2階のエアコンは使わずに済みましたね。

奥様 思いのこもった住まいの中でも特に気に入っているところは、ダイニングから大きな窓越しに眺める庭の植栽です。日常生活の中でほっとひと息つけます。選ぶのに2ヵ月かけた洗面室のタイルも好きですね。
ご主人 夜、開口部の障子を閉めたダイニングに灯る間接照明が気に入っています。帰宅した際に外から見えるぽわっとした光に心安らぎます。
奥様 間接照明は、遊びに来てくれたお客さんからも好評なんですよ。障子は麻布製で、透け感や質感がポイント。インスタグラムで探してサンプルを取り寄せ、透かし具合を確認して気に入ったものに決めました。
庭にはフェンスを設けているので、夜でも外からの視線は気になりません。
ご主人 ダイニングの天井も、ずいぶん考えただけに気に入っているポイントです。白いスペースと木のブラウンの割合がどれくらいならベストなのか、三宅さんがつくってくれたパースを見ながら検討を重ねました。無垢の杉で温もりを演出しつつ、天井の3分の1を白くすることで、すっきり感を打ち出しています。
ご夫妻 今後は、庭の植物を増やしたり夏にはプールで楽しんだりしたいですね。それに今は2階の子ども部屋をまったく使っていませんが、就学までには部屋を整えたいと考えています。この家でこれからも子どもたちの成長を見守っていきたいです。

※1 ウェルケアベッド ベッド・移乗リフト・入浴の3つの機能が備わった浴槽付介護ベッド。ベッドのマットを外すと浴槽になり、吊り具を使って入浴や移乗を行います。単に部屋に置くのではなく、車いすの大きさや移乗方向、備品の収納場所などを盛り込み、設置を提案します。
※2 エアボレー(air volley) 床下冷暖房型の全館空調システム。一年を通して快適な室温に保ちます。