住宅の耐震性能 <耐震と制震と免震> 中編2023.04.10

今回は前編からの続きで、弊社がなぜ「耐震」と「制震」を使い分けているかについてのお話しです。
●前編のブログはこちら
 
阿部建設では、SE構法は「耐震」、在来工法は「耐震+制震」で計画します。
この2つの工法の違い、それは「接合部」にあります。
 
SE構法


SE構法は「ラーメン構造」を木造住宅に取り入れた耐震構法です。このラーメンというちょっと変わった単語は、ドイツ語の“額縁”を語源としています。額縁のように柱と梁の接合部が一体化され動くことがない「剛接合」となっており、柱と梁でほとんどの耐力を持つことが可能です。その為ラーメン構造は、高層ビルやマンション、商業施設などの鉄筋コンクリート造や重量鉄骨造で利用されることが多かったのですが、近年は耐震性の高さや大空間を設計しやすい点から木造住宅にも採用されるようになりました。SE構法はその中でも全国的にも多くの実績を持つ構法です。
 

SE構法ホームページより

 
阿部建設では、お客様のご要望に応じてSE構法を採用します。上記の通り、柱・梁でほとんどの耐力を得る為、材積が大きく地震の際にもほとんど揺れを感じない剛性があります。その為、SE構法の建物においては「制震装置」を組み込む必要がなく、「耐震」のみで設計を行います。モデルハウス「新栄の家」はこのSE構法で建築された3階建て住宅です。

 

 
弊社は全国約600社あるSE構法登録施工店から選抜された70社「重量木骨の家プレミアムパートナー」です。定期的に研究会やワークショップに参加し、最新の知識と技術を取得・共有し、資産価値の高い家づくりに取り組んでいます。
 
●阿部建設の「SE構法の家」専用ページはこちら
●SE構法について、詳しくはこちら

 

SE構法で建築した教会<インマヌエル名古屋キリスト教会>

 
SE構法は地震に強く柱のない大空間が可能になる一方で、剛接合という仕様上、接合部や基礎部分にコストがかかり在来工法に比べ割高です。また、梁や柱が大きいので建物高さを低くしたい場合には室内に構造材が見えてきてしまう、材料が全て集成材なので屋内に現しで使うには見栄えが良くないなどのデメリットもあります。その為、なるべく柱を減らして空間を広く取りたい狭小地の建物や、大開口・大空間をご希望のお客様にはピッタリですが、全てのお客様に当てはまる最適な構法という訳ではありません。
 

 
ちなみに、SE構法の施工店は全国に数多くありますが、SE構法自体は施工難易度が高い構法です。「施工ができる=技術のある工務店」という、一つの指標には成り得ると思っています。
 

 
 
在来工法


在来工法は一般的な木造住宅に多く採用されている工法です。柱と梁の接合部は「ピン」で繋がれた状態になっており、これを「ピン接合」と言います。ピン接合とは、柱や梁の部材を一体化せず留める方法です。構造計算や設計が比較的容易なことや材積が小さい為コストを抑えることが出来ますが、地震が起きた際に接合部は蝶番のように回転しようとするので建物と一緒になって揺れてしまいます。それを防ぐ為に「筋交い」と呼ばれる斜めの部材を組み込みます。

 

 
そもそも在来工法の建物は揺れに耐える「耐震」で設計されることが多いため、地震が起きた際には揺れを感じます。そこに「制震装置」を併用することでその揺れ幅は小さくなり、大きなメリットを得ることができます。
 

 
また、「制震装置」は繰り返しの揺れに強いという特長も持っています。前回のブログでお話しした熊本地震では、発生から3日間で1500回以上の余震、震度6弱以上に限っても7回という異例の多さでした。東日本大震災も同様に、発生から2カ月以内で4回発生するなど、地震は本震だけではなくその後の余震があることを忘れてはいけません。
 

 
「建物がダメージを受ける」ことと「接合部がダメージを受ける」ことは同義です。繰り返しのダメージによって段々と耐力が失われ、最終的には修復不能、倒壊へと繋がります。
 
では、接合部がダメージを受けるのはどの様な状況の時か?それはまさに建物が揺れる時です。更に言うと「揺れによる移動量や揺れ幅=ダメージ量」となります。本来、90度であった接合部が大きく開いて120度、押さえつけられて60度となり、その後また90度に戻ったとしても、元の強さが得られないことは何となくイメージできると思います。実際には構造材に使用されているネジやクギが緩んだり、抜けることによってダメージを受けていきます。(※実際にそんなに大きく動くことは有りませんが…)
 

 
制震装置はその移動量や揺れ幅を抑えてあげることで接合部へのダメージ量を減らし、繰り返しの地震が来ても建物の耐力を残すことが可能です。このことは、実物大の住宅を用いた実大実験においても証明されています。
 

TRCダンパーホームページより

 
この実験では、極大地震想定の地震波(震度6強)を1回、繰り返し地震想定の地震波(震度6強)を3回入力。一般的な建物(耐震等級3相当の耐震住宅)は、221本ネジやクギが抜けたり折れたりしたのに対して、TRCダンパーを設置した制震住宅は24本と約10%に抑えています。揺れ幅を抑えれば、これほどまでのダメージ低下に繋がります。
 

TRCダンパーホームページより


 

このことを踏まえ、阿部建設では基本は「耐震」で設計を行い、補助として「制震」を組み込むことでより地震に強い家になると考え、家づくりをしています。
 
SE構法と在来工法。2つの工法にはもちろんメリット・デメリットがあります。敷地の条件や地盤データ、お客様のご要望に応じて使い分けてご提案しています。その先にあるのは、「震災後も安心して住み続けられる家」であるということ。より詳しく知りたい方はぜひ担当者までお問い合わせください。
 

次回は<耐震と制震と免震>後編、ご質問の多い鉄骨造についても触れていきます。

 
 

業務企画室 室長 阿部

この記事をシェアする

関連するブログ記事

ブログトップに戻る