住宅の耐震性能 <耐震と制震と免震> 後編2023.04.17

<耐震と制震と免震>の最後は、木造と鉄骨造についてのお話、番外編です。
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お客様からいただく質問で多いのは「木造より鉄骨造の方が強いのでは?」という内容です。
結論から言うと、「一概にそうとは言えない」ということ。鉄骨造も木造と同じように部材の厚みと接合部の仕様によって構造の考え方は変わり、主に「重量鉄骨造」と「軽量鉄骨造」の2つの工法に分かれます。
 

 
重量鉄骨造


重量鉄骨造はSE構法と同様の「ラーメン構造」が主になり、鉄骨の厚みが6mm以上を重量鉄骨と呼びます。ラーメン構造なのでもちろん接合部は「剛接合」、柱と梁のみでほとんどの耐力を持つことが可能です。特徴はSE構法と同様ですが、木造と比べ重量が段違いに重い為、地盤が弱い場合には強固な地盤改良工事が必要になる可能性があります。

 

重量鉄骨造のシステム建築<yess建築>で施工

 

重量鉄骨造で施工した福祉施設<ふれ愛名古屋 家族支援拠点 ふきあげ>


 
 
軽量鉄骨造
 


軽量鉄骨造は大手ハウスメーカーの2階建て以下の住宅で多く採用されています。木造の在来工法と同様の考え方で接合部は「ピン接合」です。その為、柱と梁のみでは耐力を受けきれないのでブレース(筋交い)というバッテンの材料を入れる必要があります。店舗などで見た事がある人もいるのではないでしょうか?
 

(写真上)壁ブレース ※参照:一般社団法人プレハブ建築協会
(写真下)水平ブレース

 

特徴は在来工法と同様でコストを抑えられることが大きなメリットです。材料の厚みは6mm未満、一般的には3.5mm~4mm程度の厚みの材料が普及しています。木造の柱を見た後に軽量鉄骨の柱を見るとその細さや本数の少なさに驚きますが、言い換えれば、住宅レベルではそれだけ細い、少ない材料でも十分な耐力を保持できるということで、鉄が持つ素材自体の強さを示しています。同時に、耐震面では木造の在来工法と比べても大きな差が無いとも言えます。強いて違いを挙げれば、軽量鉄骨造の場合は木造よりも柱の本数を少なくできる為、空間を広くつくりやすいという点があります。
 

 
以上の様に鉄骨造の場合においても、木造のSE構法と在来工法で挙げた違いと大きく変わりません。弊社ではお客様のご要望によって鉄骨造をご提案する場合もありますが、主に施設建築などが多く、住宅ではまずオススメすることはありません。
 
その理由は、
① 重量があるので地盤改良リスクが高い
② 工場製品、規格製品の為、間取りや断面計画に自由が利きにくい
③ 断熱性や気密性確保の難易度が高い
④ 一工務店の発注量レベルでは価格が高くなってしまう
⑤ 生産時のCO2排出量が格段に多く、解体や廃棄時に費用が掛かる
⑥ 増改築をする際に難易度が高い
などが挙げられます。
 
それでも検討する方が多いのはなぜか?
私個人の見解として、“木よりも鉄の方が強そう”という漠然としたイメージが先行し、「木造<鉄骨」という考えがあるように思います。私自身も以前鉄骨のハウスメーカーに勤務していたこともあり、当時は木造の方が下だという認識でいました。しかし、鉄骨のメリットを十分理解した上で、昨今の木造と鉄骨造の差はほとんどないように感じます。それは現代の木造住宅のレベルがどんどん上がり、鉄骨造に追いついてしまったという背景があるからかもしれません。
 

 
では、鉄骨よりも木造が劣っていると言われるのはどのような点で、それは実際にその通りなのでしょうか?
よく言われるのは、下記のような内容です。
 

  • 木は一本一本性質が違うので、品質が安定しない

木は一本一本ムラがあると言われますが、現代ではJAS(日本農林規格)で加工品に一定のレベルを設けることで、工業製品の様に性能のバラつきが出なくなっています。実は木の強さに関わる含水率やヤング係数も全て測っています。
 

 

  • 現場の職人、特に大工の腕で性能が変わる

終戦後、大工が一から手加工して家を建てていた時代は「現場で組み立てる職人の能力=建物の品質」というのが当たり前でした。しかし今は、現場に加工できるような十分な広さや場所もなく、工場加工が一般的となったことで、職人の木材加工技術による品質の差も少なくなっています。ただし、その材料を組み立てたり取り付けたりするのは職人です。これは、木造、鉄骨造に限らず建築全般に言えることで、それによって品質が変わるというのは構造に関係無くあり得る話です。

 


 

  • 火災に弱い

「木は燃えやすく鉄は燃えない」というイメージから、木造は火災に弱く、鉄骨造は火災に強いと言われています。現代の建築基準法では(地域によりますが)、屋根や外壁に不燃処理をした材料を使用する為、簡単に延焼しないよう設計されています。家の中も内装下地には不燃材を使用していますので、家具などが燃えることはあっても簡単に家全体に燃え広がらない様になっています。これは鉄骨造でも木造でも同じ話です。
 

 
では、肝心の構造部分が火に当たった場合にどうなるか。木は表面が燃えて炭化しても芯部分まではなかなか燃えることがありません。火災現場の跡地で構造だけ残っている木造というのもよくあります。それに対して鉄は、燃えることはありませんが変形や耐力の低下が起こりやすくなります。大きな火災の際には、鉄骨造の方が倒壊するケースが多いのはこの為です。現代の建築基準法から考えると、火災に対しては鉄骨造も木造も大きな違いはなくなっています。
 

 
このように、木造であれ鉄骨造であれ大きな違いはないことが分かります。
しかしながら、上記のメリット・デメリットを考えた上で弊社では住宅は木造をオススメしております。
 

 
 
前編〜後編にわたって、<耐震と制震と免震>についてお話ししました。工法、装置、素材など様々な選択肢がありますが、まずは「十分な強度の建物をつくる」ということが大前提であり、それに対してどれを選択していくかは自分次第です。
一方で、いくら「耐震や制震性能の優れた家である」と言っても、その性能の根拠や裏付けがしっかりしたものでないと意味がありません。その根拠や裏付けとなるのが「構造計算」です。

 
次回は「構造計算」と合わせて耐震等級についてもお話ししたいと思います。
 
 

業務企画室 室長 阿部

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