造作家具、どこにお金がかかる?新人設計士が現場で知ったこと2025.12.24

「社長の親族の方ですか?」
「いえ、たまたま苗字が同じだけです」
という会話がもはや定番となっている、新入社員の設計 阿部です。
 
さて、皆さんもご存知の通り、阿部建設の家づくりは、接客から設計、施工管理、引き渡しまでを一人の社員が一貫して行っているのが特徴です。
これまでも、ブログなどでたびたび挙げられる「担当一貫性」。でも、実はこれってすごくレアな業務形態なんです!
 
中途採用の先輩社員の中には、この「担当一貫性」に魅力を感じ転職先に選んだという方もいるようで、私もこの業務形態とバリアフリーに強い点に惹かれて入社しました。(そこに惹かれたばっかりに、冒頭のやりとりが恒例となったわけですね。せめて私が安倍とか安部であれば...と思う日々です)
 

さて、私の入社と同時に、新人育成のための新たな試みが始まりました。
設計に配属される新入社員は、まずメンテナンス・リフォーム部に所属し、担当一貫性の「接客→設計→施工管理→引き渡し」の流れを学ぼう!という教育方針です。
お客様のリフォーム工事(ほど良い難易度のもの)を一から担当させてもらい、お引き渡しまで無事完了したら、正式に設計へと配属されます。
(この工事を、社内では“卒業物件”と呼んでいます)。
今回は私の卒業物件、「阿部建設本社改修工事」から学んだ、造作家具に関するお話です。
 
改修対象であるお部屋のbeforeがこちら。
 

見てください。この収納の少なさ。
この写真は片づけた後なのですっきりとしていますが、以前はこの空間の奥、1/3程度は物置のようになっており、パーテーションで区切るような部屋の使い方でした。
そこで今回は、物置の代わりとなるような大容量の造作棚をつくろう!というのが主な改修です。
 
こちらが今回造作した棚の一部をイラストで表したものです。
ほぼ壁一面なので、しっかりとボリュームがあります。
 

 
そして、実行予算(工事に必要な金額で利益を含まない金額)を作成している時に驚いたのは、「思った以上に扉の価格が高い!」という点でした。
というのも、会社から提示された予算内に収まらず「いったい何にお金がかかっているんだろう?」と探っていたところ、扉の金額が高いことに気が付いたのです。
 
下の図は、棚の「扉部分」と「扉以外の部分」の金額割合を示した円グラフです。
どちらも材料費と施工費を合わせた金額で計算していますが、黄色(32%)とオレンジ色(68%)、どちらが扉だと思いますか?
 

 
「扉が高いって話なんだから68%の方でしょ!」
「さすがに68%だと高すぎるし、32%じゃない?1/3でも実際の金額で見たらきっと十分に高いでしょ…」
「扉が高いって話だから、ここはあえて32%の方が怪しい」
などなど、いろいろと思考を巡らせていただけたでしょうか?
 
私はなんとなく、扉は棚全体の1/3とか、1/4くらいの金額だと思っていたのですが、実は逆で、扉の方が高いんです。
つまり、オレンジ色(68%)が扉部分、黄色(32%)が扉以外の棚本体の金額です。
造作棚の価格を左右するのは、実は「扉」なんです。
 

加えて、選ぶ材料もポイントです。
使う木材はシナ材とタモ材。棚部分はランバー、扉部分は合板を使用しており、どちらも木材を組み合わせて厚みを出しており、無垢の一枚板に比べるとコストを抑えることができる仕様です。ステーキ肉よりひき肉の方がお安いのと同じですね。扉部分はプッシュラッチ(奥に押し込むと手前に扉が飛び出すように開く仕様)にしました。
 
シナ材は、比較的お手頃な価格の材料です。
シナ材よりも少しコストが高いタモ材を使った場合で、以下の3パターンを検討・比較してみました。(施工費は同じなので単純に材料費のみが変わります)
 
A.棚:シナ材 扉:タモ材
B.棚:シナ材 扉:シナ材
C.棚:タモ材 扉:タモ材
 
結果、B<A<Cの順に価格は高く、BはAの0.91倍、CはAの1.07倍となります(先ほどの円グラフで示したものと同じ寸法、構成で計算しています)
一概に「造作家具」といっても、その金額の「内訳」をみるとさまざまなことがわかってきました。
例えばこれを実際の家づくりで考えた時には、寝室や子ども室、ウォークインクローゼットのような来客の目に触れない部分はBパターン、玄関やリビング等で基本的に閉じるような棚であればAパターン、常に片側が開く状態の棚であればCパターンがおすすめかなと思いました。
 
さて、以上のことから予算内に金額を抑えるべく方針を決定!
 
①扉のついていないオープンの棚を増やす
②扉はタモ材、扉で隠れる棚はシナ材を使用する
 
こうして無事に完成した造作棚がこちらです。
職人の方々の作業を見て感じたことは、建具は棚に合わせて、慎重な採寸や加工、蝶番の細やかな調整などが必要になり、想像以上に時間と手間が掛かっているということです。仕上がりの美しさは言うまでもないのですが、それが金額面にも反映されているのではないかなと感じました。

 

 

 
また、工事を通して初めて知ったのは、造作家具は必ずしも「家具屋さんだけがつくるもの」ではないということです。
家具屋さんがつくる収納は、見た目も品質も抜群です。一方で、阿部建設では大工さんと建具屋さんが協業で製作することも多いとのこと。先輩からは、比較的コストを抑えながら、使い勝手とデザイン性を兼ね備えた造作家具として、お客様からの満足度も高いと聞きました。
ご家族のご要望を伺いながら、デザイン面、コスト面、使うシーンなどに応じて、さまざまな選択肢を用意できるのも、オーダメイドならではだと感じました。
 


 
既製品ではなく造作家具で「自分の理想の収納やキッチンにしたい!」と思うと、どうしても予算を上回ってしまうことが多いと思います。
造作家具の金額は、大きさ、素材、細かな仕様など、さまざまな要素が絡み合って決まるので、今回のように「扉を減らしたらから大幅に減額した」「素材を変えたら安くなった」とは一概に言えません。
それでも、数万円の些細なコスト削減かもしれませんが、見せる収納を増やして扉や引き出しの数を減らす、市販のお気に入りの収納箱に合わせて造作棚をつくるなど、さまざまなアイデアや工夫をご提案することで、本当にお金を掛けたい部分を妥協しない理想の家に近づくのではないか、と思いました。
 
今回の経験も活かしながら、これから設計部での仕事に取り組んでいきます!
 
 

設計 阿部

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